全ての人に健康と福祉を:SDGs目標3の実現に向けて
- 【NPO法人CORUNUM】 HP事業担当者
- 7月17日
- 読了時間: 11分
「全ての人に健康と福祉を」は、国連が掲げるSDGs(持続可能な開発目標)の3番目の目標です。この目標が目指すのは、年齢や住む場所、経済状況に関わらず、すべての人が健康的な生活を送り、必要な福祉サービスを受けられる社会の実現です。
この目標には、妊産婦や新生児、5歳未満の子どもの死亡率削減から、エイズ、結核、マラリアといった感染症の根絶まで、幅広い課題が含まれています。
また、心臓病やがんなどの非感染性疾患対策、精神保健の向上、交通事故による死傷者の半減、性と生殖に関する健康サービスの充実、医薬品への公平なアクセス、そして世界中での医療従事者の確保など、現代社会が直面する健康課題のほぼすべてが網羅されています。
目次
1 深刻化する世界の医療格差
残念ながら、21世紀の今日でも、世界では多くの人々が基本的な医療サービスを受けられずにいます。開発途上国では約4億人が医療サービスにアクセスできず、人口の半数近くが健康保険に加入していません。こうした地域では、妊産婦の死亡率が先進国の14倍に達し、新生児や5歳未満の子どもの死亡率も依然として高い水準にあります。
さらに深刻なのは、医療費の負担による貧困の拡大です。世界で8億人もの人々が医療費の支払いのために貧困状態に陥っており、本来治療可能な病気であっても、経済的な理由で適切な治療を受けられない現実があります。不潔な水や衛生設備の不足も、感染症の蔓延や子どもの健康に深刻な影響を与え続けています。
また、交通事故による死傷者は年間約135万人に上り、特に5歳から29歳の若年層にとっては主要な死因となっています。これらの問題は、単なる医療技術の不足だけではなく、社会インフラの整備や教育、経済発展など、様々な要因が複雑に絡み合って生じています。
こうした課題を解決するには、各国の経済力や社会基盤の格差を乗り越える必要があります。先進国による技術移転や資金援助、国際機関との連携が不可欠であり、この目標の達成は各国の協力体制にかかっています。ただし、一部では「理想論に過ぎず、現実的な達成は困難」との懐疑的な声があることも事実です。
2 具体的な数値目標と行動指針
SDGs目標3では、2030年までに達成すべき具体的な数値目標が設定されています。妊産婦死亡率を出生10万件当たり70人未満に削減し、新生児死亡率を出生1,000件当たり12人以下、5歳未満児死亡率を出生1,000件当たり25人以下に削減することが目指されています。
感染症対策では、エイズ、結核、マラリア、顧みられない熱帯病の根絶を目指し、肝炎や水系感染症への対処も含まれています。非感染性疾患による若年死亡率を予防と治療により3分の1減少させ、精神保健を向上させることも重要な課題として位置づけられています。
薬物乱用やアルコールの有害摂取を含む物質乱用の予防・治療強化も求められています。
性と生殖に関する保健サービスについては、すべての人が家族計画や情報、教育を含むサービスを利用できるよう、2030年までの達成を目指しています。
特に重要なのは、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)の実現です。これは、財政リスクからの保護、質の高い基礎的保健サービスへのアクセス、安全で効果的かつ安価な必須医薬品とワクチンへのアクセスを含む包括的な仕組みです。
また、有害化学物質や大気、水質、土壌汚染による健康被害の大幅削減、各国における保健財政の拡充や医療人材の確保・育成も重要な要素となっています。
3 長寿国日本の現状と課題
日本は国民皆保険制度により、医療や福祉サービスへのアクセスが世界的に見て極めて良好で、平均寿命も世界最高レベルを維持しています。しかし、この優れた制度も、急速な高齢化という大きな試練に直面しています。
2025年には人口の約3分の1が65歳以上の高齢者になると予測され、医療費や介護費の急激な増加が深刻な問題となっています。現役世代の負担増加、医療従事者の確保困難、地域医療の維持など、解決すべき課題が山積みしています。
特に、介護や社会保険制度の持続可能性の確保は喫緊の課題であり、高齢化社会との向き合い方や高齢者の実情を深く理解することが、持続可能な社会構築のために不可欠となっています。
4 日本政府の取り組みと国際貢献
日本政府は「全ての人に健康と福祉を」の達成に向け、国内外で多面的な取り組みを展開しています。
国内政策では、持続可能な医療・介護制度の構築が最重要課題となっています。医療提供体制の改革を進めながら、予防医療の推進、地域包括ケアシステムの強化、介護人材の確保・育成に力を入れています。国民の健康寿命延伸を目指し、特定健診・特定保健指導の推進、がん対策の充実、生活習慣病予防、メンタルヘルス対策など、包括的な健康政策を展開しています。
災害大国である日本では、災害時の医療体制強化も重要な課題です。災害拠点病院の整備やDMAT(災害派遣医療チーム)の派遣体制強化を進めています。また、少子高齢化対策として、妊娠・出産から子育てまでの一貫したサポート体制整備や予防接種の推進にも取り組んでいます。難病や希少疾患への対策として、研究開発の推進、医療費助成、相談支援体制の強化も重要な政策分野となっています。
国際協力では、ODA(政府開発援助)を通じたグローバルヘルスへの貢献を積極的に行っています。途上国への医療技術協力、保健人材育成支援、感染症対策としてのワクチン供給や検査体制構築支援、母子保健の改善支援など、多岐にわたる分野で支援を提供しています。
特に注目すべきは、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)の推進です。日本は自国の国民皆保険制度の経験を活かし、世界中の人々が必要な保健医療サービスを負担可能な費用で受けられる体制の実現を国際社会に働きかけています。食料安全保障、栄養改善、衛生環境の整備支援など、健康と密接に関わる分野への支援も継続的に行っています。
5 一人ひとりができる健康と福祉への貢献
「全ての人に健康と福祉を」という目標は、決して政府や国際機関だけの責任ではありません。私たち一人ひとりの日常的な意識と行動こそが、この目標達成への重要な推進力となります。
最も基本的で効果的な貢献は、自身の健康維持です。バランスの取れた食事、適度な運動、十分な睡眠、定期的な健康診断を心がけることで、個人の健康を保つと同時に、社会全体の医療費抑制にも寄与します。これは、健康保険制度の持続可能性を支える重要な要素でもあります。
次に重要なのは、健康や福祉に関する知識と理解を深めることです。感染症予防の正しい方法、メンタルヘルスケアの重要性、高齢者介護の現状と課題など、関連する情報を積極的に学び、家族や友人、地域の人々と共有することで、社会全体の健康リテラシーを向上させることができます。
実際の行動として、地域の社会貢献活動への参加も非常に有効です。高齢者支援、子ども食堂の運営支援、災害時の医療支援ボランティアなど、様々な機会があります。こうした活動に参加することで、現場の実情を肌で感じ、問題の本質をより深く理解できます。これは、単なる情報収集では得られない貴重な体験となり、より具体的で実効性のある解決策を考える契機となります。
また、医療支援団体や国際協力NGOへの寄付も、少額からでも始められる重要な支援方法です。これらの団体は、SDGs目標3の達成に向けて現場で活動しており、私たちの支援が直接的に世界の健康と福祉の向上に貢献します。
消費者として、エシカルな選択を心がけることも重要です。健康や福祉に配慮した製品やサービスを選ぶことで、企業のSDGs取り組みを後押しできます。児童労働に関わっていない製品の選択、環境負荷の低い製品の購入、フェアトレード商品の支援など、日常の買い物でも貢献できる機会は多くあります。
最後に、社会的な発言力を活用することも大切です。政治家への政策提言、SNSでの情報発信、署名活動への参加など、健康と福祉に関する問題について積極的に意見を表明し、継続的な関心を示すことで、社会全体の意識を高めることができます。
6 SDGs目標間の相互関連性
SDGsの17の目標は独立したものではなく、相互に深く関連し合っています。「全ての人に健康と福祉を」という目標3も、他の多くの目標と密接に結びついています。
「目標1:貧困をなくそう」との関係では、貧困が医療アクセスの大きな障壁となっている現実があります。同時に、健康状態の改善は労働能力の向上につながり、貧困からの脱却を支援します。これは、健康と経済発展の好循環を生み出す重要な関係性です。
「目標2:飢餓をゼロに」は、栄養不良が特に子どもの健康と発達に深刻な影響を与えることから、健康目標と直接的に関連しています。適切な栄養摂取は、免疫システムの機能維持や疾病抵抗力の向上に不可欠です。
「目標4:質の高い教育をみんなに」では、保健衛生教育が病気の予防や健康的な生活習慣の確立に重要な役割を果たします。また、医療従事者の育成には質の高い教育システムが不可欠であり、両目標は密接に関連しています。
「目標5:ジェンダー平等を実現しよう」では、女性の性と生殖に関する健康が特に重要な課題となっています。ジェンダー平等の実現は、女性が適切な医療サービスを受けられる社会環境の整備に直結しています。
「目標6:安全な水とトイレを世界中に」は、清潔な水と適切な衛生設備が感染症予防の基本であることから、健康目標の基盤を形成しています。これらの基本的なインフラの整備なくして、健康的な生活は実現できません。
7 企業の革新的取り組みとテクノロジーの可能性
SDGs目標3の達成には、政府や個人の努力に加えて、企業の技術革新と社会的責任も欠かせません。各分野の企業が、それぞれの強みを活かした独自の取り組みを展開しています。
製薬業界では、開発途上国向けの安価な医薬品開発、顧みられない疾患への研究投資、ワクチンアクセス改善プログラムなど、利益追求を超えた社会的使命に基づく活動が広がっています。
食品・飲料業界では、栄養価の高い食品開発、アレルギー対応製品の拡充、食育活動の推進などを通じて、人々の健康維持に貢献しています。
IT業界の貢献は特に注目すべき分野です。遠隔医療プラットフォームの開発、人工知能を活用した疾病診断支援システム、電子カルテシステムの普及、個人の健康管理アプリの提供など、デジタル技術を駆使して医療アクセスの向上と効率化を実現しています。
保険業界も、健康増進プログラムの提供、予防医療へのインセンティブ制度、特定疾患に特化した保険商品の開発などを通じて、人々の健康をサポートしています。
医療分野におけるテクノロジーの進歩は、SDGs目標3の達成に革命的な可能性をもたらしています。遠隔医療(テレメディシン)は、医師不足の地域や移動困難な患者でも専門医の診察を受けられる環境を提供し、医療アクセスの地理的格差を大幅に縮小しています。
人工知能を活用した診断支援技術は、診断精度の向上と早期発見を可能にし、医療従事者の負担軽減にも貢献しています。ゲノム医療の発展により、個人の遺伝子情報に基づいた最適な治療法の選択や、疾病の早期リスク予測が可能になり、個別化医療の実現が現実味を帯びています。
ウェアラブルデバイスの普及は、日常的な健康監視を可能にし、心拍数、活動量、睡眠パターンなどの継続的な記録により、健康状態の変化を早期に察知できます。これは、予防医療の推進と個人の健康管理の質的向上に大きく寄与しています。
さらに、ブロックチェーン技術の医療分野への応用も期待されています。医療記録共有のセキュリティ化、医薬品サプライチェーンの透明性確保、医療データの改ざん防止などにより、医療の信頼性と効率性を同時に向上させる可能性を秘めています。
8 私たちの選択が未来を決める
「全ての人に健康と福祉を」という目標は、確かに多くの困難な課題を含んでいます。しかし、世界各国の政府、企業、市民社会、そして私たち一人ひとりが連携し、それぞれの立場で行動することで、この目標の実現は決して不可能ではありません。
重要なのは、この目標を遠い理想として捉えるのではなく、日常生活の中で実践できる具体的な行動として理解することです。自分の健康を大切にし、周囲の人々の健康にも気を配り、社会全体の健康と福祉の向上に貢献する。そうした一人ひとりの小さな行動の積み重ねが、やがて大きな変化を生み出します。
あなたも今日から、身近なところから行動を起こしてみませんか。健康的な生活習慣の実践、地域のボランティア活動への参加、エシカルな消費の選択、健康問題への関心の表明など、できることから始めてみましょう。私たちの選択と行動が、すべての人が健康で幸福な生活を送れる未来を創造するのです。